秋の企画展準備で、房総半島の館山に採集に出掛けた。群馬県からは片道220キロもある場所だが、海岸沿いの草地にはバッタ・コオロギ・キリギリス類が多く、時間をかけて行くだけの価値がある場所なのだ。天気が微妙で、雨の確立が高かったが、結果薄曇で、炎天下よりも体力的に楽な天気に恵まれた。しかし、4時ごろになって、やや雲が立ち込めて霧雨が降り出したのだ。それと同時に、丈のある草むらから「ビィーーー」という大きな声が聞こえてきた。もしやこの声はカヤキリ?と思ったが、本来夜に鳴く虫なので半信半疑であった。鳴き声に近づいていくと、草に登ってけたたましく鳴くカヤキリの姿があった。久しぶりの対面であったが、その体格と声の大きさは度迫力であった。手でつかんでも鳴きやまず、鳴き声で威嚇するほど気が強い性格の個体であった。その日は館山の街中の民宿に泊まったのだが、夜になって再びあの鳴き声が窓の外から響いてきた。それは駐車場脇の狭いヨシ群落からであった。ライトを片手に夜間採集となったが、今度はメスを発見したのだった。思わず手を伸ばして捕まえたとたん、親指をがぶりと噛まれて出血しながらも、オスよりもさらに大きいその体格に痛さも忘れて(酔っていたせいもあるが)ただただ喜んでしまった。