昆虫の森の西に、フェンスを隔てた田んぼと土手がある。当然園外であり、稲作が古くから営まれた民地である。出退勤時にいつも眺めながら「いい田んぼだなぁ」と僕の心を和ませる風景があるのだ。ここには、園内では稀なオナガササキリが毎年安定して発生し、8月あたりから「ジッ・ジッ・ジッ」と声を響かせている。田んぼの畦や土手を利用する昆虫たちは、草刈りによって失われた環境を、一時的に水田内に避難し、稲刈りの頃、再び復元した草地に戻ってくるのだ。これも、人間が介在する里山環境と生き物がうまく折り合い、水田環境と昆虫たちの不思議な関係を生み出している。土手にすっかり茂ったチガヤのベルト地帯には、稲刈りも終わり、田んぼにいた昆虫たちがこぞって集結し、すごい密度で昆虫たちが集まっていた。ほんのり赤く色づいたチガヤの上では、沈みかけた西日を浴びながらオナガササキリが力強く鳴き続けていた。